薬と治療

薬を飲んでいると体に悪い?

……処方しているのはヤクの売人か?

■ 患者さんと話していてよく聞かれるのが、

「あまり薬を飲んでいると良くない」と言われたとか、
「この薬を飲んでいて害はないのでしょうか」といった質問です。

■ まず最初の問題ですが、多くの場合友人や家族が善意から言っているのですが、

困るのは何故どういうことが良くないのか根拠がなく、

言った本人も誰かから聞いただけでそんなことは知らないといった無責任さなのです。

さらに、薬を飲まないで治療はどうすればいいのか、

薬を止めて病状が悪化した場合、誰が責任をとるのかという対案が無いのです。 

■ 医師の側からすると、6年も医学の勉強をし、10年以上かけて一人前になり、

日々新たな情報を学び、十分な根拠の上で処方したのに、

体に有害なものを売る麻薬や覚せい剤の売人のように言われるわけですから、

治療意欲を削ぐには十分です。 

■ また一生懸命薬を開発した人(名前も知りませんが、ノーベル賞をもらった

田中耕一さんのような人かもしれないし、プロジェクトXに出てくるような

開発秘話があるかもしれません)にも気の毒なことです。 

服薬に伴う小さなリスクをさけて…
        
合併症が発生する大きなリスクをとりますか?

● 日本で薬として承認されるには約10年程かかります。

この間に有効性、副作用、安全性が審査されます。

当然のことですが有効性と副作用を天秤にかけて

副作用が上回れば薬として認められません。

● 薬を飲む以上、副作用の可能性はゼロではありません、

しかしその確率は薬を止めて起こる傷害の確率とは比較にならないほど小さいものです。 
さらに、薬を止めた場合、病状や合併症の進行はほぼ確実ですし、

その結果不幸な状態に陥るのも稀ではないでしょう。

● 副作用の害を未然に防ぐにはしばしば診察して薬の効果だけでなく、

副作用のチェックも行い、時には副作用発見のための検査も必要になります。

こういうふうに心配されるのは慢性疾患で永く飲む薬の場合ですが、

多くは病状を緩和し、合併症が進行しないように飲んでもらっています。

慢性疾患での服薬は…自動車保険をかけるようなものです!

★ このように副作用の可能性がゼロではない薬を飲むかどうかということを、

高血圧を例にとって考えてみましょう。 

★ まず高血圧の薬といっても現在使われているのは降圧剤つまり

血圧を下げる薬であって高血圧を治す薬ではありません。

ですから1年ほど飲めば高血圧が治る薬は今のところありません、

飲んでいる間血圧を程よくコントロールするということになります。

★ そこで高血圧を治療しなかった場合を想定しましょう。

その場合平均寿命がくる前に脳出血や脳梗塞、心筋梗塞などで半身麻痺や寝たきり、

最悪の場合死に到る確率が高くなります、たとえばそれを40%としましょう。 

降圧剤を飲むとその確率が小さくなるわけですがそれを5%としましょう。 

この場合、35%の人は薬のおかげで難を逃れられたということになります。

★ しかし薬を飲んでいても5%の人は合併症での傷害を防げなかったことになるし、

60%の人は飲まなくても大きな合併症による障害はなかったかもしれませんが

薬を飲みつづけていたという側面があります。

また心配されるようにたとえば、0.05%という位の人に

副作用が出るかもしれないというのも事実です。

★ 簡単にいうと、患者さんをまとめてみると確率としてのデータはあるのですが、

個人個人では誰がどのグループに入るかは現在の医学では分かりません。 

★ ですから、薬を飲むというのは自動車保険や火災保険と同じように、

誰が災害を受けるか分かりませんが災害に備えて保険をかけるようなものです。 

保険料という負担がかかったり、事故が起こらなかった場合は

結果として保険料は無駄だったかもしれません、

しかし誰に起こるか分からない災害が起こったときに

保険をかけていなければ取り返しがつかないのですから。 

だだ、安全運転や燃えにくい家を建てるなどで保険料が安くなるように、

食事や運動療法などの努力に応じて薬も減らすことが出来るのです。

2003年10月01日